ノンプロフィット国際人権論   International Human Rights and NGOs

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担当教員
森田 明彦 
使用教室
 
単位数
講義:2  演習:0  実験:0
講義コード
68049
シラバス更新日
2008年10月1日
講義資料更新日
2008年10月1日
学期
後期

講義概要

前ハーバード大学カー人権政策研究所長(現カナダ自由党党首)のマイケル・イグナティエフが指摘したように,第二次世界大戦後,人権という理念・規範が世界的に普及した背景には国際人権NGOによる活発なアドボカシー活動がある。今日,人権規範は「権利に基づくアプローチ」を通じて開発協力の世界でも重要な活動指針となっている。20世紀後半は正に「権利革命」の時代であったのだ。本講義では,NGO,NPO活動の根本原理である「人権」理念がいかに生まれ,発展してきたのかを歴史的に振り返ると同時に,人権を巡る課題をDVや人身売買,武力紛争下の人権侵害な等を通じて具体的に考えてみることとしたい。

以下の3科目はノンプロフィトマネージメントコースの学生だけが履修可能である。履習希望者はあらかじめノンプロフィットマネージメントコース主任まで申し出ること。

講義の目的

前ハーバード大学カー人権政策研究所長(現カナダ自由党副党首)のマイケル・イグナティエフが指摘したように、第二次世界大戦後、人権という理念・規範が世界的に普及した背景には国際人権NGOによる活発なアドボカシー活動がある。今日、人権規範は「権利に基づくアプローチ」を通じて開発協力の世界でも重要な活動指針となっている。20世紀後半は正に「権利革命」の時代であったのだ。この講義では、NGO、NPOの活動原理である「人権」理念が如何に生まれ、発展してきたのかを歴史的に振り返ると同時に、人権を巡る課題を地球環境問題との関連や人身売買、武力紛争下の人権侵害等を通じて具体的に考えてみることとしたい。

講義計画

第1回 子どもの権利を巡る世界的動き
第2回 「人身売買」問題
  フィリピンとカンボジアでのリサーチワークショップの結果を中心に
第3回 環境と人権 地球環境問題と人権
第4回 武力紛争と人権
  子どもの兵士問題を中心に
第5回 人権理念の歴史(1)
 近代西欧社会における人権理念の誕生と発達
  Charles Taylor, Hegel, Cambridge University Press, 1977
  C.Taylor, Sources of the Self, Harvard University Press, 1989
  C.Taylor, A Secular Age, Belknap Pr, 2007
第6回 人権理念の歴史(2)
  近代西欧社会における人権理念の誕生と発達
  Charles Taylor, Hegel, Cambridge University Press, 1977
  C.Taylor, Sources of the Self, Harvard University Press, 1989
  C.Taylor, A Secular Age, Belknap Pr, 2007
第7回 人権理念の歴史(3)
  近代西欧社会における人権理念の誕生と発達
  Charles Taylor, Hegel, Cambridge University Press, 1977
  C.Taylor, Sources of the Self, Harvard University Press, 1989
  C.Taylor, A Secular Age, Belknap Pr, 2007
第8回 人権の制度(1)
  人権保障制度の概要
第9回 人権制度(2)
  子どもの権利委員会を巡る動き:日本政府報告書を中心に
第10回 人権の今日的課題
  アジア的価値と人権
  Charles Taylor, Conditions of an Unforced Consensus on Human Rights in J.R.Bauer & Daniel A. Bell eds., The East Asian Challenge for Human Rights, Cambridge University Press, 1999
第11回 人権の今日的課題
  他国への介入と人権:イラク戦争
  Michael Ignatieff, The Lesser Evil, Edinburgh University Press,2005
第12回 人権の今日的課題
  多文化主義と人権
  チャールズ・テイラー『マルチカルチュラリズム』を中心に
第13回 人権の今日的課題
  ユビキタス社会における人権
  Akihiko Morita, Modern social imaginaries and human rights(第23回IVR世界大会での発表原稿)
第14回 人権の今日的課題
  現代社会の柔らかい専制と人権
  チャールズ・テイラー『『<ほんもの>という倫理』を中心に
第15回 まとめと振り返り

教科書・参考書等

<テキスト>
森田明彦『人権をひらく―チャールズ・テイラーとの対話』(藤原書店、2005年4月)

参考書等
<参考文献>
森田明彦『表現アートセラピーを応用したリサーチ手法の可能性―人身売買被害者の<ほんもの>の語り』(財団法人アジア女性交流・研究フォーラム、2007年4月)
チャールズ・テイラー、田中智彦『<ほんもの>という倫理』(産業図書、2004年)
チャールズ・テイラー、佐々木毅他訳『マルチカルチュラリズム』(岩波書店、2002年)
チャールズ・テイラー、渡辺義雄訳『ヘーゲルと近代社会』(岩波書店、2000年)
中野剛充『テイラーのコミュニタリアニズム』(勁草書房、2007年)
マイケル・イグナティエフ、エイミー・ガットマン編、添谷育志・金田耕一訳『人権の政治学』(風行社、2006年)
Akihiko Morita, Charles Taylor, 『社学研論集』第10号(早稲田大学大学院社会科学研究科、2007年)
Charles Taylor, Hegel, Cambridge University Press, 1977
C.Taylor, Sources of the Self: The Making of the Modern Identity, Harvard University Press, 1989
C.Taylor, Modern Social Imaginaries, Duke University Press, 2005 C.Taylor, A Secular Age, Belknap Press, 2007
J.R.Bauer & Daniel A. Bell eds., The East Asian Challenge for Human Rights, Cambridge University Press, 1999
Michael Ignatieff, The Lesser Evil, Edinburgh University Press, 2005

成績評価

小レポート 40%(毎回の授業の最後にA4で1枚のレポートを書いてもらいます)
授業への参加度 20%
最終レポート  40%(3000字程度のレポートを書いてもらいます)

担当教員の一言

人権とは如何なる意味で普遍的なのだろうか?
  わたしは、多文化の下での人権の普遍性を検討する際、既存の文化を前提として、現行の人権思想との整合性を議論することは二重の意味で過ちであると考えている。第一に、人権思想自体が、西欧近代社会において成立した歴史的産物であり、西欧社会の文化的偏向を反映しており、これをそのまま受容しようとすることは、個人の基本的平等から導かれる各個人の属する文化、民族、国家間の基本的平等という人権思想の内在的原則に反している。第二に、それぞれの文化の内容は所与のものではなく、その内容を決める権利は個人にあるという人権思想のもう一つの原則である個人の自律性を無視している。つまり、ある文化の下で人権という思想は定着し得るか、という問いには現在の人権思想自体と当該文化に対する批判的吟味が伴っていなければならない。
  わたしは、国際人権という理念は、各々の文化において異なった基礎付け、原理的根拠を見出すべきであると考えている。そのためには、(1)現在の人権思想のどの部分がその誕生の地である西欧社会の文化的偏向を反映した特殊西欧的なものであるかを明らかにするという社会思想史的分析、(2)特殊西洋的な部分を取り外した人権思想はどのようなものとなり得るのかという哲学的検討、(3)人権という新しい思想を受け入れるために、特定の文化にとっていかなる変容が求められるのかという文明論的検討という三つの作業が不可欠である。
  そのために私が取り上げたのが「権利主体としての自己」という観念である。テイラーによれば、近代における道徳世界が、それ以前の文明と決定的に異なっているのは、権利の内容ではなく、権利の形式である。すなわち、近代以前において、ひとは「法の下にある(I am under law)」と考えられていたのに対して、近代以降、権利とはその所有者が(権利を)実現するために、それに基づいて行動すべき、あるいは行動することができる「主体的権利」と考えられるようになったのである。中世の身分制社会から解放された個人は、自らの望むところにしたがって自らの人生を発展させる権利を、「法」によって与えられたのではなく、自らに帰属するものと考える「権利の主体」となった。
  「権利の主体としての近代的自己」は、自由で民主的な共同体に「位置づけられた存在」として、他者との対話と承認を通じて自らの個性を発展させるために、そのような生き方を可能とする自由主義体制を維持、発展させる社会的責務を自ら担う「主権者としての人」となったのである。

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