光格子とはレーザー光の定在波によって作られる原子に対する周期ポテンシャルである。この光格子に極低温の原子気体を閉じ込めた系は、a) 固体電子系と類似しており、固体物理現象の深い理解につながる、b) 卓越した制御性のために新奇現象の開拓の可能性が大きい、といった利点から近年盛んに研究されている。この分野にとっての大きなブレイクスルーとなった2002年の超流動絶縁体量子相転移の観測から10年以上が経過し、これまでに光格子中の冷却気体の物性研究に関しては非常に多くの研究成果が蓄積されてきている。本講義では、これまでの代表的な研究を学びながらこの分野における基礎を固め、現状の共通の興味・問題点について議論する。
光格子中冷却気体系の基礎を学び、最先端の研究論文(特に実験)を理解できるようにする。それを発展させて独自の研究を推進できるきっかけを与える。
はじめに光格子中の冷却気体系が実験でどのように作られるのかを説明し、また冷却気体系における代表的な観測量を紹介する。さらに、光格子が十分に深いときこの系がハバード模型で定量的に記述されることを示す。
次に、ボース粒子系における超流動相とフェルミ粒子系における金属相について議論する。特に超流動相の物性に関しては、励起スペクトル、超流動臨界速度、原子間相互作用によるバンド構造の異常な変化など多様な性質を紹介する。
続いて、光格子を深くすることで引き起される超流動から絶縁体への量子相転移について講義する。この現象を定性的に記述する方法として、サイト分断平均場近似を紹介する。また、相転移近傍で妥当な有効模型を導出し、その模型を使って転移の普遍的性質や振幅モード(Higgsモードとも呼ばれる)について議論する。さらに、非一様閉じ込めポテンシャル中における量子相転移と一様系におけるそれとの共通点と相違点を説明する。
時間が許せば、現在大きな注目を集めている話題として、混合原子気体系や強い双極子相互作用を持つ冷却気体系における新奇な量子相や量子相転移についても紹介したい。
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