物質の構造や物性を分子レベルで理解するには,スペクトル測定が欠かせない。吸収スペクトルの基礎的な式であるBeerの式A=εcは,吸光度が濃度だけと関連付けられており,濃度以外の豊富な分子情報すべてεに押し込まれている。特定の分子情報を自由に取り出すには,このεをめぐる理論的な体系を理解することが必要である。本講義では,分析化学的視点からスペクトルの定量的な扱い方の基礎について述べる。
最先端の計測分析では,単に分光器でスペクトルを測定しただけでは分子情報を十分に得ることはできない場合が多い.本講義では,スペクトルに代表される多変量データを解析し,混合物中の微小試料に関する情報や,狙った分子情報を定量的に引き出す手法について学ぶ.すなわち,学部の分析化学ではほとんど触れられないケモメトリックスや,反射分光法の電磁気学的な取り扱いについて述べ,スペクトルの定量的な扱いに親しむことを目標とする.また,日ごろから物理・化学の実験データを扱う学生に,より自由度の高いデータの扱い方を身につけてもらうことを目指す.
1. Lambert-Beer則の物理的背景
2. Lambert-Beer則の多成分・多波長測定への拡張~CLSモデル
3. 回帰計算の主役:妥協解 最小二乗解との関連
4. 多次元空間を利用したスペクトルの新たな表現と理解
5. CLSの原理的限界.Inverse Least Squares (ILS)法の導入と問題点
6. ILSの検証.波数点を合理的に減らす工夫:主成分分析法(PCA)
7. ILSにPCAのアイディアを導入:Principal Component Regression(PCR)回帰法
8. PLS回帰法
9. 界面の反射スペクトル 他
「スペクトル定量分析」長谷川健・著(講談社サイエンティフィク)
化学専攻および物質科学専攻に所属する修士課程の学生を対象とする.
定期試験で60点以上を合格とする.ただし,50点以上59点以下の者については,レポートや小テストを考慮する場合がある.
本講義は,「計測機器演習第一」のうちラマン分光法の実習と強い関連がある.