近代日本文学史を、近代日本の精神史として把握し直したい。明治、大正、昭和戦前期を中心に小説と批評とを行き来しながら、その全容を明らかにしていく。
本講義は、昭和前期の小林秀雄に至るまで道のりを中心とした近代日本文学についての精神史的考察である。明治維新以降、日本は次のような矛盾と葛藤を抱え込むことになった。すなわち、近代化しなければ独立国家たり得ず、しかし近代化すればするほどアイデンティティ喪失(故郷喪失)の危機に直面せざるを得ないといったジレンマである。そして、この矛盾は昭和初年代に登場してくる小林秀雄において徹底的に問われ、それが日本近代に初めて「文芸批評」というジャンルをもたらす事になった。では、小林秀雄の文学に至るまでの、明治、大正、昭和文学の地平とはいかなるものだったのか。本講義では、その歴史を一つの一貫した精神史として描き出していきたい。
第一回 ガイダンス―近代日本精神史としての「文学」
第二回 日本近代文学の系譜:明治(Ⅰ)―激動する明治
第三回 日本近代文学の系譜:明治(Ⅱ)―「悲憤慷慨」から「時代閉塞」まで
第四回 日本近代文学の系譜:大正(Ⅰ)―「政治」と「文学」の分離
第五回 日本近代文学の系譜:大正(Ⅱ)―関東大震災と「故郷喪失」
第六回 日本近代文学の系譜:昭和(Ⅰ)―新感覚派の登場と芥川の死
第七回 日本近代文学の系譜:昭和(Ⅱ)―「内在批評」から「外在批評」へ
第八回 日本近代批評の誕生:小林秀雄(Ⅰ)―初期小林秀雄の苦闘
第九回 日本近代批評の誕生:小林秀雄(Ⅱ)―「様々なる意匠」を読む
第十回 日本近代批評の誕生:小林秀雄(Ⅲ)―「宿命の理論」以後
第十一回 日本近代文学の系譜:戦後(Ⅰ)―激動する戦後
第十二回 日本近代文学の系譜:戦後(Ⅱ)―敗戦と無頼派
第十三回 日本近代文学の系譜:戦後(Ⅲ)―高度経済成長下の文学
第十四回 日本近代文学の系譜:戦後(Ⅳ)―大江健三郎・中上健次・村上春樹
第十五回 まとめ―近代文学とは何だったのか
浜崎洋介『アフター・モダニティ―近代日本の思想と批評』(北樹出版、共著)
なし
レポートの結果による
基本的にハイレベルな文学論を展開していく。その分、日本近代史の予備知識や、文学への関心と興味は必要となる。ただし、質問は遠慮なくすること。
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