公共システム論   Behavioral Theory of Public Systems

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担当教員
坂野 達郎 
使用教室
月5-6(S221)  
単位数
講義:2  演習:0  実験:0
講義コード
0136
シラバス更新日
2014年9月29日
講義資料更新日
2014年9月29日
アクセス指標
学期
後期  /  推奨学期:4

講義概要

 地球温暖化、資源の枯渇はなぜ生じるのでしょうか。また、問題だとわかっていながら、なぜ解決することが困難なのでしょうか。個人個人が合理的に振る舞うことは、社会全体にとって望ましくない結果を生じることがあります。このような状況のことを集合行為ジレンマと呼びます。集合行為ジレンマ問題を解決するためには、個人の私的行為に何らかの形で制限を加えることが必要です。私的行為に対する強制性が、公的意思決定の本質です。ただし、個人意思に反した規則や規制は有効性に欠けます。公共システム設計の最大の問題は、個人合理性と全体合理性の矛盾を、個人の自由を損なわずにいかに解くことができるかという点にあります。
 豊かな社会は、集合行為問題を解決するために、様々な社会的なしくみや価値観を発達させてきました。特に国家と市場という近代を支えてきた2つのシステムの限界が顕著となった現在、両者に代わるメカニズムを創出することが期待されています。従来ばらばらな学問であった、社会学、心理学、政治学、経済学は、社会的ジレンマの解決、制度設計をめぐってようやく共通の理論体系を確立しつつあります。本講義では、政治経済学の分野からこの問題に先駆的に取り組んだE.Ostromの理論枠組みを基軸に、社会心理学の成果を取り込み、公共システム設計の理論を学びます。

講義の目的

 講義の前半では、公共問題の多くが集合行為ジレンマ問題として定式化できることを学びます。次に、集合行為ジレンマ解決に向けた方策について、制度と心理の相補性という観点から学びます。具体的には、個人合理的な行為モデルに、動機、認知バイアス、信頼、互報酬性規範、公正観といった社会心理学的な要因を取り込み、制度の実効性に関わる要因について理解を深めます。また、近年、国による直接規制や官僚制に対する不満から、国家と市場の中間にある多様な制度的枠組みの可能性に注目が集まっています。そこで、比較制度の観点から制度と人間観、価値観の関係について学びます。これらを通して、制度を批判的に評価するとともに、国家と市場を代替、補完する新しい制度を構想するための基礎力習得をめざします。

講義計画

I 公共システムと集合行為ジレンマ
1 公共システムと集合行為ジレンマ:公的介入の正当性(1)
   一次ジレンマ ①コモンズの悲劇(G.Hardin)②囚人のジレンマ(Tucker)③集合行為の論理(M.Olsom)
   二次ジレンマ ①合理的無知、②中位投票、③組織化された利益、③レントシーキング

2 公的セクターをめぐる論争史:公的介入の正当性(2)
 ①古典的自由主義の国家観(パレート最適性と厚生定理)
 ②市場の失敗と公的セクターの役割(公共財、外部性、分配公正)
 ③夜警国家、福祉国家、新自由主義、第3の道

3 集合行為解決をめぐる3つのアプローチ:Ostrom理論をもとにして 
 ①ホッブス的国家モデルによる集合行為問題の解決と国家の失敗 (ピグー税)
 ②財産権モデルによる集合行為問題の解決と市場の失敗 (CAP)
 ③自己組織的制度による集合行為問題の解決 (LCPレジーム論)

3 非制度的協力行動の可能性:フォーク定理のM.Taylor解釈 
 ①ミュニケーションの論理と力の論理 (H.ArenndtとK.Schmit)
 ②コミュニケーションの条件(繰り返し性、条件依存戦略、時間割引率)

4 非制度的協力行動の可能性:規範の進化的形成メカニズム  R.Axcelrodのシミュレーションの意味

5 外郭的秩序と市民的公共性:景観利益を集合行為問題から考える
 ① 国立景観訴訟:宮岡判決と互換的利益
 ② 吉田克己の「市民的公共性論」と集合行為ジレンマ

Ⅱ 集合行為ジレンマをめぐる社会心理学
6 社会的ジレンマ状況における協力行動(1):協力的個人、期待
 ①混合動機状況、K-index ②G/E仮説 (協力的個人、期待) ③コミュニケーションと規模の効果
 ③構造的G/E仮説

7 社会的ジレンマ状況における協力行動 (2):効力感、公正感
 ① 効力感実験 ②MCSパラダイム ③公正感実験 ④損得の非対称性

8 社会的ジレンマ状況における協力行動 (3):同調性圧力、構造的方略、心理的方略
 ①資源ジレンマゲーム ②分配公平性とリーダーシップ ③罰の脅かし効果 ④アイデンティティ

Ⅲ 制度と信念・価値体系の相補性
9 社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)と集合行為問題: R.Putnam, J.Colemanに関連して
 ① 物的資本、人的資本、社会関係資本 ②一般信頼、一般互恵性 ③パターナリズム 対 市民共同体性 ⑤経路依存性、制度と規範の相補的関係

10 一般信頼と制度効率:近代化、第二近代の意味
 ① 社会の発展段階と信頼 ②計算的信頼と道徳的信頼 ③制度信頼とネットワーク

11 11世紀地中海世界の契約制度の発達:A. Greifのモデルにもとづいて

12 オープンアクセス社会の論理:D. Northの理論にもとづいて

13 リミティッド・アクセス社会の論理:パキスタンの児童労働の事例にもとづいて

教科書・参考書等

課題及び補足資料は,各回提示します。

関連科目・履修の条件等

特になし。

成績評価

授業中の課題、及び期末レポートをもとに成績評価します。

その他

社会システムや人間行動を分野横断的に理解してみたい人は、授業をのぞきに来てください

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