科学技術者倫理   Ethics in Engineering

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担当教員
中村 昌允 
使用教室
月5-6(H121)  
単位数
講義:2  演習:0  実験:0
講義コード
3662
シラバス更新日
2011年9月20日
講義資料更新日
2011年9月20日
学期
後期  /  推奨学期:4

講義概要

従来、科学技術は知識を追求する営みで、科学技術者(研究者を含む)は道義的責任を含めて社会との関わりは一切持たないで済むと考えられてきた。しかし、第2次世界大戦が科学技術の成果を戦争に利用した技術力の戦争といわれ、特に原子爆弾の投下は、科学技術者に自らが研究開発した成果が社会にもたらす影響や結果についての社会的責任を強く自覚させるようになった。すなわち、科学技術者が専門職(プロフェッション)としての役割を発揮し社会的責任を果たしていく上で、「科学技術者としての倫理」が問われるようになった。
現代社会は技術への依存度は増すことがあっても減少することはない。科学技術は一般市民(公衆)によってその是非が判断されるが、高度に分化・専門化した科学技術の是非はその分野の専門家でないと的確に判断できない状況になってきた。公衆は科学技術者が是非を判断した結果を後から同意する存在となっており、公衆の知る権利に応えるためには、科学技術者は公衆が納得できるように説明責任を果たし、情報を開示する必要がある。説明責任を果たすには、説明する者とされる者との間の信頼関係が前提になっており、信頼は科学技術者がモラルをもって行動することから生まれてくる。科学技術者は自分の専門分野では専門家であるが、他の分野では公衆の一人である。すなわち社会は「それぞれ分野の専門家に頼る相互依存の関係」で成り立っており、科学技術者は常に専門領域での最新の技術を習得するように努め、最善の技術で問題解決にあたることが求められている。
一方では、産業事故、製品事故などが多発しているが、その原因は現場での技術者の判断や行動に起因していることが多い。また、ヒューマンエラーが原因といわれる事故も、さらに突っ込んで原因を探ると、開発設計段階に起因していることが多い。それだけに、「科学技術のもたらす危害を最も防ぐことができるのは科学技術者であり、その社会的責任は極めて大きい」といえる。
科学技術者は、高い専門技術・能力を有する存在として、またその能力獲得のために日々研鑽していることから専門職として認定されており、その行動は専門職としての倫理が求められる。科学技術者の倫理規定は、日本技術士会をはじめとして各学協会で定められているが、「科学技術者倫理」は特殊なものではなく、一般社会に通用している倫理を技術者に対して適用したものといえる。科学技術者が科学技術に忠実に義務を果たそうとした場合に、組織や顧客と契約を結んでいるために、ジレンマや利益相反に遭遇することがある。その際に最も重要な行動基準は、「技術者は公衆の安全、健康、福利を最優先する」ことである。
講義では、科学技術者が遭遇した実際の事例を数多く取り上げ、それぞれの局面で、どのように考え、行動すべきかを一緒に考えてみたい。学生が実社会で遭遇することを紙上で理解するのは難しいと考えるが、実際の事例を当事者の気持ちになって考えること、すなわち事例を「仮想体験」することによって自ら考えることができ、それぞれの判断力や行動基準を磨くことができると考えている。

講義の目的

JABEE(日本技術者教育認定機構)が、「技術業」に携わる専門職が有するべき職業倫理として、技術が社会に及ぼす影響や効果、および社会に負っている責任を果たす上で、技術者としての判断・行動規準として「技術者倫理教育」を取り上げており、東工大でもこれに対応して、高い専門能力の育成とともに、専門職としての倫理を習得できるように技術者倫理教育を行なっている。
講義の狙い
(1)科学技術者が負っている社会的責任を自覚し、プロフェッショナルな科学技術者となるための「科学技術者倫理」の基礎的考え方を身につける。
(2)行動の規範は「公衆の安全、福利、健康を最優先する」ことである。
(3)科学技術者は、上記の行動規範と組織や顧客との契約との間で、技術者としてのジレンマに悩むことがある。
その時にどのように行動するかを考える。
(4)講義は、実際の事例を、当事者の立場に立って事例を「仮想体験」し、実際の場でどのように判断し行動するかの各自の基準を考える。
講師メッセージ
 科学技術者の行動に模範解答はない。それは今行動する状況と同じ状況が、将来再び生まれることはなく、
その瞬間でそれぞれが自らの有する判断基準や行動基準に基づいて最善を尽くすしかない。
講義では実際の事例を、仮想体験することによって、実践的な判断ができるようにしたい。
一方では、科学技術者は公衆の安全、健康、福利を最優先に行動するためには、何が必要であろうか?
それは、自立できる科学技術者への道であり、同朋からの信頼であり、公衆からの支援である。
講義を通して、21世紀を生きる科学技術者の在り方について一緒に考えたい。

講義計画

#1.イントロダクション: 講義ガイダンス 私と技術者倫理の関わり
#2.技術者倫理はなぜ必要か?: 技術者倫理の基本的考え方の紹介
#3.技術者のジレンマ(ケース事例)
#4.説明責任―1 福島原発事故とリスクマネジメント
 福島原発事故により、人々は原子力発電の安全性に強い懸念と不信感を抱いており、原発そのものの存続が議論されている。しかし、この事故は技術の問題もさることながら、リスクマネジメント(事前の備え)とリスクコミュニケーション(原子力発電に対する説明責任)の問題である。
#5.説明責任―2 専門家の責任
専門家の責任について「福島原発事故の放射線強度」「BSE」を事例に、日本人のリスク認識、専門家の説明責任について考える。
#6.プロフェッショナルな技術者の行動―1 経営者と技術者の判断
「チャレンジャー号の爆発」と「シティコープビルの強度補強」を事例に、経営者と技術者の判断はどのように違うかを考える。
#7.プロフェッショナルな技術者の行動―2 設計技術者の責任
 製品に関する事故はほとんどが開発・設計段階に起因する。「自動回転ドア事故」「三  菱自動車リコール事件」を事例に、設計に携わる技術者の責任について考える。
#8.プロフェッショナルな技術者の行動―3 事故はヒューマンエラーによるものか
「JR西日本福知山線断線事故」は、直接原因は運転手のスピードの出し過ぎであるが、人間のミスを原因とする限り、事故の再発を防ぐことはできない。ヒューマンエラーの背後に潜む設備やシステムの問題にさかのぼって対策を講じる必要がある。
#9.危機管理: トラブルが生じたときの行動
「集団食中毒事件」「タイレノール事件」を事例に、危機管理の在り方について考える。個人に判断をゆだねるのか、組織としての対応を考えるかという問題である。
#10.新規技術の開発-1 どこまで安全を求めるか?
科学技術に完璧はない。完璧でない以上、リスクはゼロにすることはできない。すなわち、どこまでのリスクを許容するかが問われる。安全に対する日本と欧米との考え方についても紹介する。
#11.新規技術の開発―2 リスクアセスメント
新しく開発した技術のリスクを低減するには、リスクアセスメントが極めて重要である。
リスクアセスメントの概要と、その社会的意義について考える。
#12.新規技術の開発―3 製品事故と製造物責任
技術者は、設備の本質安全化を図り、更に安全防護策を講じる。
それでも残る残留リスクは、使用上の情報として利用者に伝える責任がある。
「カビ取り剤」「ガス瞬間湯沸かし器」「エレベーター事故」を事例に、製品安全とは何かを考える。
#13.環境倫理と循環型社会
環境倫理の基本的な考え方として、①地球の有限、②世代間倫理、③生物保護がある。さらに、予防原則とは何かを紹介する。一方、20世紀が地下資源からものを生産したが、21世紀は資源循環を基に生産体系となる。循環型社会の在り方について考える。
#14.日本の国際競争力とMOT
日本の国際競争力は、スイスIMDの評価では、2011年27位である。
これをどのように考えるのか?一方、アメリカが国際競争力強化のために重視したのは、技術者教育とイノベーションである。
#15.期待される技術者
これから期待される技術者について考える。

教科書・参考書等

中村昌允「事故から学ぶ技術者倫理」工業調査会(2005年)

関連科目・履修の条件等

この科目は、平成18年度以降の入学生には文系科目、17年度以前の入学生には文系基礎科目の単位として認定されます。

成績評価

・期末レポートを主に評価するが、毎回ごとの小レポートも評価する。
・成績評価は、出席率7割以上の学生を対象とする。

担当教員の一言

人数制限をする場合があるので、一回目の授業に必ず出席すること。

その他

推奨学期:4学期

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