現代の記号学ないし記号論の創始者が、19世紀末から20世紀初頭を生きたソシュール(スイス)とパース(アメリカ)であることは広く知られている。授業では、この二人の業績を絶えず参照しながら、(1)21世紀の今あらためて記号学の構想を批判的に考察し、(2)記号学の目的と意義を明らかにし、(3)とりわけ新たな<言語観>を描くことを通じて、<記号>を機軸とした<哲学思想>の探究を試みたい。なお本授業を聴講するために、哲学ならびに記号学に関する予備知識はとくに必要としない。
本講義の目的は記号学の考察を通じて現代哲学の基礎を解明することである。
20世紀の哲学思想は――実在の〈直観〉や観念の〈内省〉ではなく――思考の場としての〈言語〉を全面的に開放することによって営まれてきた。これを哲学上の〈言語論的転回〉という。この転回から実際に多くの新たな知見がもたらされたが、問題はそう単純ではない。
この転回は歪んだ〈言語〉のイメージからスタートしたのではなかったか。〈言語〉を含んだ〈記号〉一般の解明を通じていまいちど〈言語論的転回〉をやり直す必要があるだろう。
しかしふたたび問題はそう単純ではない。ソシュールとパースが創設した〈記号学〉そのものがいくつかの難点をかかえている。授業では現代記号学の新しい動向を探究することを通じて現代思想の基礎を明らかにしたい。
本講義を受講するために、哲学や記号学に関する予備知識は特に必要ではない。
授業のスタイルは基本的に講義形式だが、(受講生の参加状況に応じて)参加者の側の課題の遂行、ミニ発表あるいは輪講などを可能な限り組み合わせて行う予定である。
授業で取り上げる予定の論点をあげておこう。
1)はじめに:〈記号〉とは何だろう
2)記号学の歴史の概説
3)ソシュール記号学の検討
4)記号構造の二重性
5)言語システムによるカテゴリー化
6)言語記号の二つの原理
7)恣意性の原理の検討
8)線形性の原理の検討
9)記号主義とは何か
10)パースの「記号過程」
11)言語とアイコン性・指標性
12)演繹・アブダクション・帰納
13)言語音の誕生―共鳴する身体
14)統合体としての<言語>
参考文献などは講義の過程で指示する。また資料コピーを教室で配布予定。
受講者は自分の問題意識を醸成するために、講義担当者(菅野)による記号学関連の著書のどれかに目を通しておくのがいいかもしれない。
・菅野盾樹『メタファーの記号論』勁草書房、1985,1992
・菅野盾樹『恣意性の神話』勁草書房、1999
・菅野盾樹『新修辞学』世織書房、2003
・菅野盾樹編『レトリック論を学ぶ人のために』世界思想社、2007 (一冊というならこの本を推薦)
人数制限をする場合があるので、一回目の授業には必ず出席すること。
①毎回実施予定の課題に対する評価(50%)と②試験(50%)を目安とする。
聴講というスタイルに甘んじないで、受講者参加型の授業を目指したいと思います。
連絡先:世界文明センター(内線3892)