経典と聞くと、信仰や葬式を連想する人が多い。けれども、先入観を抜きに読んでみると、意外と文学的であったり、哲学的であったりするのに驚く。特に大乗経典は、釈尊滅後、権威主義化した小乗教団を批判して在家・出家、男女間などの差別思想を乗り越える視点を打ち出すなど、思想運動の足跡がうかがえる。その中でも最も広く読まれてきたのが『法華経』。そこには異文化との共生、原子論、ブラックホールの概念までも垣間見える。サンスクリット原典から漢訳と対照させて法華経を現代語訳した経験を生かして、思想としての法華経の面白さをともに味わい、深みを探ってみたい。
「信仰や、葬式のための経典」という先入観ができあがって、せっかくの知的遺産が顧みられないことは、もったいないことだ。先人たちの培ってきた智慧に触れ、思想として、文学として仏典を見直すきっかけになれば幸いです。
日程:10月16日(土)13時~17時50分
10月30日(土)13時~17時50分
11月13日(土)13時~17時50分
11月27日(土)13時~17時50分
12月11日(土)13時~17時50分
①はじめに(仏教とは何だったのか、仏教史の概略、法華経成立の背景)
②サンスクリット原典を踏まえてのアプローチの重要性(題号の考察、中国での意訳や改変、漢訳の独り歩き、文化的誤解)
③教義の対立から融和へ(小乗と大乗の対立の止揚)
④三権一実論争(三車家と四車家の論争)
⑤法華経の七つの譬え (1)(「長者窮子の譬え」と聖書の「放蕩息子の物語」との比較など)
⑥法華経の七つの譬え (2)(良医病子の譬えなど)
⑦仏教の平等思想(歴史的人物としての釈尊、小乗仏教、大乗仏教の場合の平等思想の変遷)
⑧ジェンダー平等の思想(原始仏教、小乗仏教、大乗仏教、法華経の女性観。観音菩薩はジェンダーフリーか?)
⑨寛容の思想(不軽菩薩の振舞を通して)
⑩法華経の菩薩思想(法華経の理想とする地涌菩薩と不軽菩薩)
⑪法華経に反映された科学思想(原子論、宇宙観、ブラックホール、数論など)
⑫「IT大国インド」の秘密(英語が公用語であるという理由よりも、普遍性重視のインド人の思惟方法にこそ、その秘密が見いだされるべき)
⑬中国・日本での法華経の展開(天台大師の一念三千の発案、日蓮による発展)
⑭日本文化に見る法華経の影響(藤原俊成、西行、長谷川等伯、松尾芭蕉一門、近松門左衛門など)
毎回、資料を配付する。
参考書としては、
・植木雅俊著『マザー・テレサと菩薩の精神』、中外日報社、1997年
・Ueki, Masatoshi; Gender Equality in Buddhism, Asian Thought and Culture series vol. 46, Peter Lang Publ. Inc., New York, 2001
・植木雅俊著『仏教のなかの男女観』、岩波書店、2004年(お茶大提出の博士論文)
・植木雅俊著『釈尊と日蓮の女性観』、論創社、2005年
・植木雅俊訳註、『梵漢和対照・現代語訳 法華経』上・下、岩波書店、2008年(毎日出版文化賞受賞)
人数制限をすることがあるので、一回目の授業に必ず出席すること。
リポート(30%)と、期末試験(70%)で評価する。
質問歓迎。
連絡先:世界文明センター(内線3892)