歴史方法論   Historians

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担当教員
山室 恭子 
使用教室
火5-6(W932)  
単位数
講義:2  演習:0  実験:0
講義コード
7734
シラバス更新日
2009年2月23日
講義資料更新日
2009年2月23日
アクセス指標
学期
後期  /  推奨学期:-

講義概要

ターゲットは欲張りにも2つ。狭い歴史学の分野を超えて,受講者の将来の学問体験の支えとするべく設計した。
その1 方法論の自覚
インタビューもアンケート調査も不可能な,はるか時の靄のかなたが対象。歴史学という学問が宿命的に担う制約は,他のどの社会科学にも比して,対象へのアプローチの方法論をきびしく鍛えてきた。
なかでも傑出した特徴を示す歴史家たちの門を叩き,彼らがそれぞれに苦心して編み出した方法論のエッセンスを受けとり,自分自身の方法論を模索するきっかけとする。
その2 濫読(らんどく)の愉悦
「史書」という独立の言葉があるくらいに,歴史書は実は多彩で豊饒。だから,1000ページ,読んでいただきます!
山室自身がおもしろい! と太鼓判の史書を100冊用意する。借り出し自由。この100冊のなかから,10冊以上かつ1000ページ以上,という条件で読書レース開催。1冊ずつ律儀に通読しても,数章ずつ浮気につまみぐいしても(特にこれを推奨),極端な話,10ページずつ全冊読んでもOK。
Web上のサイト「ヒストリアンズ」に,各冊ごとに感想コメント/5つ星評価/読むのに要した時間/読んだページ/おすすめポイントを各自アップ。そうやって読書体験を受講者全員で共有するシステムを構築しました。
この読書レースが終わる頃,本を読むことが苦痛ではなくなっているはず(たぶん)。

講義の目的

ターゲットは欲張りにも2つ。狭い歴史学の分野を超えて、受講者の将来の学問体験の支えとするべく設計した。
  その1 方法論の自覚
  インタビューもアンケート調査も不可能な、はるか時の靄のかなたが対象。歴史学という学問が宿命的に担う制約は、他のどの社会科学にも比して、対象へのアプローチの方法論をきびしく鍛えてきた。
  なかでも傑出した特徴を示す十人の歴史家たちの門を叩き、彼らがそれぞれに苦心して編み出した方法論のエッセンスを受けとり、自分自身の方法論を模索するきっかけとする。
  その2 濫読(らんどく)の愉悦
  「史書」という独立の言葉があるくらいに、歴史書は実は多彩で豊饒。だから、1000ページ、読んでいただきます!
  山室自身がおもしろい! と太鼓判の史書を100冊用意する。借り出し自由。この100冊のなかから、10冊以上かつ1000ページ以上、という条件で読書レース開催。1冊ずつ律儀に通読しても、数章ずつ浮気につまみぐいしても(特にこれを推奨)、極端な話、10ページずつ全冊読んでもOK。
  各冊ごとにコメントシート(読むのに要した時間/読んだページ/おすすめポイントなど)を提出。コメントは受講者全員にフィードバックして、全員で読書体験を共有する。いわばアマゾン講義室版。
  この苛酷なレースが終わる頃、本を読むことが苦痛ではなくなっているはず(たぶん)。

講義計画

グレイト・ヒストリアンズ十傑。どの史家が、あなたの心を射止めるか?
◇フェルナン・ブローデル『地中海』
 海の大きさをそのまま歴史叙述に引き入れたとき、こんなにもゆたかな物語世界が現出する。まさに一世紀にいちどの輝ける奇蹟。
◇ミシェル・パストゥロー『青の歴史』
 色にも歴史がある。とりわけ青。その昔、白・黒・赤が三原色だった時代には蛮族の色と卑しめられていたのに、数十年の間に急上昇して人気第一位の座にすわることになった。なぜ?
◇エマニュエル ル・ロワ・ラデュリ『モンタイユー』
 そしてピレネーの小さな山村へ。1294~1324。法王庁記録から掘り起こされた村人の日常、結婚と死、心のひだをえぐる異端審問。
◇フィリップ・アリエス『〈子供〉の誕生』
 かつては「小さな大人」だったものが近代以降に「子供」として成立する過程を追うことで、ひとびとの日常を律している〈心性〉の歴史が立ち上がる。もう無邪気に「家族愛」などと言うなかれ。
◇アーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』
  これまた無前提に「国家」と呼んでしまうものの根源に光をあてると、産業社会につながる〈へその緒〉が浮かび上がってくる。  まこと明晰にして壮麗なる論理の宮殿。さすがドイツ人。
◇エリック・ホブズボウム『創られた伝統』
  伝統とは創り出されたもの。それもごくごく近年のナショナリズムの時代に。  スコットランドのタータンチェック。それは19世紀の妄想家たちが創り出した偽文書まみれの虚偽の夢。もう古いから伝統、などと言うなかれ。
◇エドワード・W. サイード『オリエンタリズム』
 人と同じように民族も国家も、そして地域もまた、自らを立ててゆくために〈他者〉を必要とする。西洋の他者たることを運命づけられたオリエントについての探究の歴史をたどると、無自覚に負ってしまう認識の〈ゆがみ〉が見えてくる。 ――そんなオリエンタリズムの橋を渡って日本へ。
◇網野善彦『無縁・公界・楽』
  エンガチョ、を知っているだろうか? 身近な子どもの遊びから説き起こし、中世から脈々と流れる「もう一つの歴史」の水脈を掘りあてた鬼気迫るほどの気魄の書。
◇宮本常一『忘れられた日本人』
 ばくろう、を知っているだろうか? 盲目の土佐の博労が語る昔語りが、すさまじき生と性の崖っぷちへと連れて行ってくれる。
◇渡辺京二『逝きし世の面影』
  近代化とともに失われた古き日本のうるわしき姿を、外国人たちの眼によって再現しようと試みる。豊富な事例と図版に、1ページごとに驚いたり納得したり。

▽講義のあいまに計3回、個人プレゼンテーションの機会を置き、読書サロンを開催する。

成績評価

講義への参加(毎回のミニレポートによって評価)+読書体験(コメントシートの蓄積とサロンでの発表によって評価)

担当教員の一言

たとえば――
  「地中海は、ぶどうとオリーブの木の織りなす風景や都市化した村々、つまり地中海のふさとしての周辺部だけでなく、あの密度の濃い高地の国、城壁に囲まれ、わずかな家と小部落があり、垂直に北を向いている人々のいる、高いところにある世界でもある。」(フェルナン・ブローデル『地中海』)
  「ナショナリズムとは、第一義的には、政治的な単位と民族的な単位とが一致しなければならないと主張する一つの政治的原理である。」(アーネスト・ゲルナー『民族とナショナリズム』)
  比べてみれば一目瞭然。ゆたかに想像の翼をひろげてゆくか、すっきり論理の筋を立ててゆくか。歴史家ごとに全く流儀を異にする。自分はどの流儀にいちばん感応できるか? 読書遍歴を重ねてゆくことで、自分自身の方法論を鍛えていってほしい。何はともあれ、本物の凄さを体感していただければ幸い。

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