偏微分方程式は歴史的には波の動きや伝熱の様子などの具体的な物理現象を描写する式として生まれたが,現代数学においては広範な幾何学,解析学,応用数学各分野の至るところに様々な形で現れる研究対象であり,また強力な数学的道具である.
この講義では初学者を対象として,偏微分方程式の数学的で基礎的な事項について学ぶ.主として線形理論を扱うが,非線形問題を視野に入れた様々なアプローチも織り交ぜることにより,現代的な偏微分方程式の解析への出発点となることを目指す.
以下のトピックをそれぞれ2講義程度のペースで学ぶ.
1.初期値問題
2.コーシー・コワレフスキーの定理
3.ハミルトン・ヤコビの定理
4.フーリエ変換とソボレフ空間
5.ラプラス方程式
6.デュアメルの原理
7.2階楕円型偏微分方程式の最大値原理
参考書として,偏微分方程式(シュプリンガー数学クラシック,フリッツジョン著),
Partial Differential Equations (American Mathematical Society,Evans著)を挙げる.
微分方程式概論と関数解析を履修していることが望ましいが,履修していなくて
も必要に応じて自習で間に合う程度であると思われる.多変数微積分と線形代数
は多用するのでその履修は必須である.
レポート問題の提出状況を見て判断する.
偏微分方程式の世界は,全体像を把握することが難しいほど広範で,重要と考え
られている方程式もたくさんあり,また問題も山積している研究の間口が広い分
野といえる.抽象的な理論と具体例を見ることで,その多様な世界への入り口を
楽しんでほしい.